何がそんなに怖かったのか
30代の頃、自分が死ぬことを考えると恐ろしかった。
自分だけが死んで、まわりは皆生きていることが、信じがたく恐ろしかった。
死にたくない、と思った。
40代の頃、親兄弟が死ぬことが恐ろしかった。
皆死んで、自分だけ残されたらどうしよう、と思うと怖かった。
毎夜毎夜、どうか明日も家族が無事に過ごせますように、と真剣に祈った。
60になって、去年父が死に、今年は兄が死の淵にいる。
だけど、もう怖くない。
人は皆、いつか死ぬものなんだから。
死と生は隣りあわせ。
生だって、もともとは無から始まったもの。
その無に帰るのが死かもしれない。